2010年4月16日金曜日

焼却灰とスラグ、溶融スラグ化は何のためか by 青木泰氏

焼却灰とスラグー
溶融スラグ化は何のためか
   
2010年4月15日 青木泰

1) 小論の目的
  東京23区清掃一部事務組合〔清掃1組〕は、H19年度、年間67.5億円掛けて焼却灰の溶融スラグ化を行っている。現在焼却工場から発生する焼却灰の約3割をスラグ化しているが、これをさらに6~7割に増やし、処理経費を108億円まで増やす計画としている。〔報告書A(*1)〕
 スラグ化は、一般的には以下の3点が目的とされているが、
埋め立て処分量を減らし、処分場の延命化を計る
資源利活用
高温で溶融処理する事によるダイオキシン等の毒性物質の削減
実際のところどうなっているのか?清掃一組の総予算の1割前後を食い尽くす処理に妥当性があるのだろうか?
止めようダイオキシン汚染!東関東ネットワーク代表の佐藤れい子氏が情報開示請求した資料を中心に検証する。

2) 処分場延命化のための減容化の実態
  報告書Aに掲載されている平成19年度の「焼却灰処理量」と「スラグ生産量」を比較する。「焼却灰処理量」は、スラグ化のために溶融処理した焼却灰の量で、「スラグ生産量」は、溶融処理によって出来たスラグの量である。
 この数字を見ると
「焼却灰処理量」は、115,050トン
         「スラグ生産量」は、88,045トン
となっている。
溶融処理によってどれだけ減量したかを見ると
88,045÷115,050×10076.53 
約77%、つまり23%しか減っていない。
 処分場の延命化にとっては、容積が問題となるが、焼却灰、スラグの比重については書かれていない。数十億円かける事業の一番肝心な点のデータが報告されていない。(関心がないのであろうか?)
 
3) 資源化率
清掃一組の説明による資源化率は、87.9
清掃一組の説明では、スラグの資源化率は、87.9%と説明されている。〔2010328日学習会〕これは報告書Aの下記のデータを計算したと考えられる。
  「スラグ生産量」  88,045トン
  「スラグ利用率」  68,737トン
  68,737÷88,045×10078.08
しかしここで言う「スラグ利用率」とは何か?
本当に利用されているのか?私たちに聞こえて来る情報では、使い道がほとんど無く、期限が来ると溜まってしまうため、廃溶融施設から埋め立て処分場に運んでいると言う情報である。利用率78.9%と言うのを確かめてみたい。

基本データの整理(その1)-焼却によって排出されるものー
ここでは、ごみがどれだけ焼却され、焼却灰等の排出物が出され、どれだけスラグ化されているかのデータを整理した。
データとしては、H20年度のもので見てゆく。(*2)(*3)(*4)
) 焼却ごみ総量  275.9t (*2)    万t/

)焼却灰     29.4t/年   
・焼却残灰搬出量    28.3t/年 (*3)
・破砕ごみ処理施設  0.07t/年(*4)
・中防灰溶融施設   1.03t/年(*4)
         
)その他の排出物 0.86t/年  (*4)
・ケーキ汚泥     0.8t/
・その他       0.06t/

)焼却灰の内スラグ化されたもの9.92t/年 (*4)
 
③ 基本データの整理 (その2)-埋め立て処分と資源化
    <埋め立て処分>    29.78t/年 
 焼却灰他                      20.56万トン   
    ・埋立焼却灰                        19.7t/
        ・ケーキ汚泥                      0.8t/
    ・その他                  0.06t/
 スラグ                         9.22t/
       埋立て             1.39t/
    埋立処分場(有効利用)   7.83万t/

<有効利用(土木用資材)>       0.7t/
  
基本データの整理 (その3)スラグの処理・処分の内訳
スラグ全量                   9.92 万t/年         
     ・埋め立て処分場     9.22t/
         埋立て           1.39t/
      埋立処分場(有効利用)7.83万t/
                 ・土木用資材      0.7t/

⑤ 基本データのまとめ
このデータを見ると次のことが大まかに分かる。
ごみの焼却量の約1割が焼却灰として排出される。
焼却灰の2/3がそのまま埋め立てられ、1/3がスラグ化されている。
スラグ化された中の8%が、土木資材用に「有効利用」されている。
スラグ化された92%は、埋め立て処分場に埋められ、そのうち15%はそのまま埋められ、85%は、埋め立て処分場の「地盤改良工事の埋戻し材」として「有効利用」して使っている。

⑥ 実際の資源利用率は、2.3
清掃一組が言う資源化率87.9%というのは、埋め立て処分場に地盤改良工事名目で埋められるスラグを資源利用されていると考えて、計算したものであった。
資源と言うのなら埋め立て処分場を管理している東京都に有価物としてどれだけの値段で売っているのかと尋ねたところ清掃一組の答えは、「0円」と言う事であった。「0円」と言うのは値段が付かないと言う事であり、
これは、法律上は、廃棄物扱いとなる。
つまり地盤改良工事用として処理されているスラグは、資源として利用されているわけでなく、埋め立て処分場に廃棄されていたのである。
したがって、
焼却によって排出される総量(灰・スラグ)は、
     ・埋め立て(焼却灰他)    20.56万トン
     ・埋め立て(スラグ)     9.22万トン
     ・土木用資材(スラグ)    0.7万トン
           小計       30.48万トン
   となるため、実際の資源化率は、
    0.7÷30.48×100=2.3%
   となる。

4 コスト
学習会での説明では、スラグ化にどれだけのお金がかかるかを尋ねたところ、1トン当たり約2万円ということであった。
報告書Aを見ると灰処理原価として3種類のコストがかかることが記載され
   灰処理原価(溶融エネルギー経費)  17,979
   灰処理原価(人件費)        21,669
   灰処理原価(点検整備費)      15,410
           合計         55,058
55千円/トン掛かることが示されている。

5) 総まとめ
  以上東京23区で行われている溶融スラグの実態を検証してきたが、
処分場延命化については、焼却灰をスラグに代えて埋め立てているだけであり、どれだけ延命化するかの計算すら行っていなかった。
資源化率の87.9%と言うのは、実態とは程遠く、事実は、2.3%でしかなかった。
焼却灰を高温で溶融すれば、ダイオキシンは、分解する事になるが、その際、焼却灰中に混入している重金属は揮発し煙突から飛散する事は無いのか。焼却灰中に重金属がどれだけ含み、スラグ中にどれだけ残っているかの物理組成を調べれば、溶融過程で飛散する量は、計算できる。
京都市の実験では、鉛などは90%飛散すると言う実験結果が出たため、溶融は止めた経過がある。現状として溶融スラグ化による危険性について検証を行っていない。
溶融スラグ化のために莫大な電力を使っている。CO2の増大に大きな影響を持っている。
 
 結論: 清掃一組は、トン当たり55千円と言うお金を使い、焼却灰のスラグ化処理を行ってきた。焼却灰は、約30万トン現状で排出されているため、このまま放置すれば、毎年約150億円のお金を使ってスラグ化処理をする事になる。しかしスラグ化は、87%資源化というのは見せ掛けでしかなく、結局埋め立て処分している実態を確認した。では、スラグ化によって処分場の延命化が行われているかと言うと重量比で1/4しか削減されていず、容積比では数値さえ出して確認していない事が分かった。
 では高温溶融する事によって、焼却灰の有害性を除去するためか?そんなことも考えていないとしたら、何のためにお金を掛け、CO2を増大させる処理を行うのか?
 廃プラ焼却の見直し同様、スラグ化の見直しは、必死である。
周辺環境と地球環境を悪化させる溶融スラグ化は、すぐ止めるべきだ。
 
 参考文献
1 報告書A:溶融処理技術検討委員会 報告書
H21年7月 東京二十三区清掃一部事務組合 溶融処理技術検討委員会)
2 非エネルギー起源CO2排出量及び焼却量等データ(H19,20年度比較)
3 平成20年 清掃工場作業年報(H20年度 残灰拠出量)
4 平成20年 清掃工場作業年報(H20年度 残灰量とスラグ搬出量)

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