2014年10月12日日曜日

20141012 青木泰さんからのメール:あざらしサラダさんのがれき問題の報告本について


今日届いた青木泰さんのメールを掲載させていただきます。
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差出人: 青木泰
日時: 20141012 15:16:50:JST
件名: あざらしサラダさんのがれき問題の報告本について

皆様へ(Bccでお知らせしています)重複送信失礼します。
お世話様です。
名古屋のブロガー「あざらしサラダ」さんが、がれきについての
出版本を出すそうです。
 
富山の新川地区の自主出版本、「平成がれき騒動」に触発され、ご自身も出版を考えられ、
知り合いの新聞記者に相談したところ、
自分の経験の範囲だけでなく、他での動きも載せることを奨められ、
何人かの方に執筆を依頼したそうです。
 
その件で私にも依頼が来て、これまで私が書いたものについて掲載したいと言うことでした。
私自身もがれきの問題での出版を考えていたため、自分でも使う分があり、かぶらない限り基本的にOKであることを伝えてきました。
 
この件で、木下黄太氏の動きも話しに伝わり、
ネット上も議論になっていると聞きました。
そこで私の見解を下記に示しました。
 
ご笑覧ください

がれきの広域化との闘いと報告本問題について

2014年10月10日  環境ジャーナリスト 青木泰
 
1.概要

がれきの広域化は、今年3月に終了しましたが、名古屋のブロガー“あざらしサラダ”さんからがれきについての本を出版するという話がもたらされ、私が過去に書いたみどりの情報特版の記事などを使いたいという申し込みがありました。基本的のOKであるとお伝えしました。
 
一方でこの件で放射能汚染プロジェクトの木下黄太氏が、異議を唱えているという話も届いてきました。
 
そこで木下氏ともお話しし、木下氏の懸念が、がれきの問題やがれきを巡る弾圧問題に、詳しい青木や下地氏がかかわっていないものだと、がれきの運動を事実に基づき書くという点で、齟齬が出る。そうなれば今後に続く、指定廃棄物との闘いや滋賀のチップ材の不法投棄などの産廃系の汚染物問題、さらに権力からの弾圧との闘いに問題を残すという点にあることが分かりました。木下氏は、その意味で、青木や下地氏の名前を出して、問題提起していたことも分かりました。
 
そこで木下氏の“期待”に応えて、私は沢田氏の本つくりにもう一歩協力する形でかかわることを決めました。私の活動の経験が生かせれば幸いです。
(もちろんあざらしサラダさんが、中心に行っている企画であり、私の意見は参考にしていただくということですが)
ご心配いただいている皆さん方に以上お答えしたいと思います。
 
2.がれきの広域化=汚染廃棄物の拡散

がれきの問題を記録に残すとなれば、様々な切り口が考えられますが、放射能被曝によって子供や未来を守るという動きが、原点にありました。
 
その上で、広域化処理が何故問題だったかというと、言うまでもなく、放射性物質や有害物を「拡散」「焼却」「希釈」してはならないという世界の原則に反し、汚染・被爆を拡大するということです。
 
がれきの広域化は、被災3県の内、福島県を除く、宮城県、岩手県2県のがれきを、全国の市町村に運び、市町村の清掃工場で焼却し、埋め立て処分するというものでした。その際福島県を除いたのは、福島県発のがれきは、放射能汚染されているが、2県のがれきは汚染されていないということが、環境省の提案の前提になっていました。
 
木下氏(や山本太郎氏)は、東日本各地にふりまかれた放射性物質による被曝からの防御の必要性を説いて回り、わが子に異変や被曝症状が現れる前に、安全地域に避難すること奨め、がれきの広域化問題が議論に上る前から取り組みを行っていました。
 
広域化予定されている宮城、岩手のがれきも、汚染牛問題や陸前高田の倒壊松の放射能汚染問題が、次つぎと明らかになるにつれ、木下氏や山本氏は、がれきの広域化の受け入れ予定自治体で、がれきの受け入れることの危険性を訴え、反対運動の先頭に立っていました。
 
一人はTVメディアのプロジューサーの地位を掛けて、一人は俳優の地位を掛けて、国家的な情報統制の中で、住民の側にたった情報の発掘、伝達者として状況に鋭く切り込んでくれたのでした。
 
私は、2012年1月からがれきの問題で講演会活動に入りますが、呼んでくださった個人や団体は、既に木下氏の講演会や山本氏の集会などを実施し、その中で触発されての呼びかけでした。
 
がれきを受け入れたときにどのような問題が起きるのか?広域化を阻止するにはどうすればよいか?などをテーマにした講演会や学習会でした。いわば、二人が荒れ地を開墾してくれた後に、住民の皆さんと何を植えて育てて行くかの相談をするのが私の役割でした。
 
北九州市の市民検討委員会の結成時の記者会見では、そんな木下氏や山本氏と一緒にメンバーになって、がれき受け入れの問題点を記者会見で訴えました。記者会見後、山本太郎氏を先頭にした北九州市への抗議デモは、500人になり、その市民の力は、その後の北九州市、全国のがれき反対活動を先導するものになりました。
 
このように私がかかわった一断面を捉えても、いろいろな形で見えて来るものがあります。
 
従ってがれきの問題にかかわった全国の人たちから取材し、何のためにかかわり、何が変わり、今何を感じているかなど、全国各地の闘いを振り返る形が期待されるのですが(誰かやってみようと考える方は名乗り上げてくれませんか?)事は大掛かりにすれば、それだけ大変な努力が必要になります。
 
その意味では、できるところから報告を行い、それを繋いでゆく試みが実践的だと言えそうです。
 
3.がれきの広域化との闘いにおいて突きつけられたもの

ではがれきの広域化との闘いの到達点は、どのようになっているでしょうか?私が認識している範囲で、以下まとめてみます。
 
1)全国の連携で破たんさせたがれきの広域化

がれきの広域化との闘いは、全国の多くの市民の連携によって成功したと言えます。絆キャンペーンの下、殆どすべての政党が賛成し、労働組合やマスメディアまでまるで大政翼賛会のような形で、賛成する中で、住民の闘いが勝利したのです。
 
インターネットが大きな役割を果たしたこと、既成政党がこぞって賛成に回ったため、逆に市民が中心の運営ができ、またその多くが女性が責任者になる形を取りました。そうしたことが成功した主な要因だったと私は考えています。
 
広域化処理400万トンと打ち出されたうち、2013年夏の段階で終了していたのは、12万トン。わずか3%です。その時点では宮城県発は全面終了し、岩手県発も富山県や大阪を残すだけでした。これらを加えても数%の達成率で、あまり結果は変わりません。
 
今年3月末に、がれきの広域化が終了した時点で、環境省は、60万トンと発表しましたが、その発表でも実施率は15%で、85%は未実施だったと言うことです。
 
東京新聞では、その環境省の60万トンに対して、そのまま発表せず、県外処理量という注釈をつけました。つまり県内処理によって、委託業者に発注した分の内、その委託業者の下請け関連で県外処理を行った分を含めて、60万トンとして発表したと言うことです。
 
広域処理は、400万トンと発表され、県内処理と別枠で予算立てされていたものであり、環境省の発表は明らかに間違いです。
 
いずれにせよ広域化処理は、破綻したと言えます。
 
2)被災地の不幸を利権に結び付けて考えていた官僚たち

そしてその破綻の隙間から見えてきたのが、復興資金流用問題でした。
 
放射能汚染物の全国への拡散や焼却は、防ぐことはできたものの、広域化を含めて予算立てされた復興資金の数千億円もが残ることになり、その流用化が改めて問題になってきました。
 
阪神淡路、中越地震でのがれきの処理コスト(1トン当たり2.2万円)の倍以上になったのは、広域化処理の巨額の予算立てが響いています。
 
そして元々この余剰資金を生み出すことが、広域化の目的だったという事実が明らかになりつつあります。(がれきを受け入れたことを名目に、廃棄物処理施設建設に補助金を付けて、ばら撒くことが「目的」)
 
3)余剰資金を焼却炉建設に流そうとする企み

がれきの広域化はほぼ防ぐことが出来ましたが、東日本を中心にした剪定枝や下水汚泥などの焼却によって生み出された高濃度に濃縮された指定廃棄物の処理が新たに問題になっています。
 
これらは特措法では環境省が処理すると、従来の放射性物質の保管処理を行うように匂わせながら、福島県を中心に焼却処理に入りつつあります。
 
従来100ベクレル以上は、保管処理することがルールでした。指定廃棄物はその80倍の8000ベクレル以上であり、当然保管処理すべきものです。
ではなぜ焼却処理するのでしょうか?減容化が目的とされていますが、有機物系の汚染物であれば、乾燥や発酵処理し、水分を飛ばせばよく、燃やすことは必要ありません。
 
巨額のがれきの処理予算=復興資金を余らせ、それを焼却処理用のプラント建設に使ってゆく。焼却炉メーカとの懇ろな関係を深めること自体が目的ではないかと私は考えています。
 
ここには環境汚染から国民を守るという意思は、国家の意思として全く見えてきません。
 
4)環境汚染から国民を守るのは?

311東北大震災と原発事故を通して見えてきたことは、環境省が本来果たさなければならない環境規制省の役割を、事業部門が拡大する中で、放棄しつつあることです。
 
従来環境省の事業予算としては、全国の市町村が行う清掃工場の焼却炉建設等への補助金(数百億円)が中心でした。それが震災後、がれきの処理予算だけで1兆円、除染費用出2兆円、合計約3兆円の事業予算を持つ事業省になったことです。約100倍規模に膨れ上がりました。
 
環境省は、これまで、公害や環境汚染を規制し、環境保全を行う規制庁の役割を持っていましたが、突然このような巨大な事業部門が作られたのです。(本来は復興予算は、復興庁に集中し、実際に使う自治体に直接配分すべきでした。)
 
しかもその事業部門が、がれきの処理や除染処理を通して、放射性物質を環境中に放出することをやってきたのです。
 
同一省内に事業部門と規制部門を持っている場合、規制部門は働かなくなるのは、原子力発電事業を進めて来た経産省の事例で明らかです。
 
経産省内にあった原子力規制庁が原発推進をチェックできなかったと環境省に移されてきた福島原発事故の反省点は、ここでは生かされていません。
 
私達は、がれきの問題を通して、私たち国民を守るのは、私達自身の力でしか守れないということを実感してきました。
 
これまで環境汚染から国民を守るための環境6法では、放射性廃棄物や放射性汚染物は、定義上も外されてきました。放射性物質は、それを取り扱う原発、医療、研究施設で適切に管理されるため、一般環境中には放出されないとされていたのです。原発の安全神話と対になって、環境法での放射能汚染への規制も行われてこなかったのです。
 
しかし実際に原発事故が起こり、環境中に放射性物質は放出され、汚染がれきや汚染廃棄物の焼却・埋め立て処理によって、環境汚染が広がる恐れがありました。ところが、本格的な規正法への立法化は放置され、大気汚染防止法や水質汚濁防止法では、一部取り入れたものの、監視権を都道府県知事から環境大臣に移管し実質規制しない体制を明らかにしています。
 
環境省の役人は、「これまで放射性物質について知見もノウハウもない」と語ってきましたが、その状態は今も変わりがないのです。
 
我々の国民、市民の側で、放射性物質の規制、放射性物質による被曝による影響、影響軽減のための法制度、治療体制、焼却処理の禁止など専門家と結んだ市民環境省を立ち上げて行く必要があります。
 
4.今後の課題

法制度上の問題は、環境法だけでなく、原子炉等規制法自体も、すぐに改正の必要があります。現状では、今回のような事故があっても、事業者は何の罰則すらない法律のままです。原発の再稼働はこの面からも問い直す必要があります。このような法改正の課題に加え、以下のような課題を上げることができます。
 
1)廃棄物処理(特に放射性廃棄物)の流れの総枠点検が必要

現在指定廃棄物や汚染牧草などの減容化を目的に焼却炉が建設され、それらの焼却灰などを保管する中間貯蔵施設が福島県を中心に作られようとしています。そして中間貯蔵施設と言いながら広大な敷地内に焼却炉も建設しようとしているところがあります。
 
廃棄物の処理は、①収集 ②中間処理 ③最終処分と言う大きな流れになっています。中間処理とは、破砕したり、焼却したりして廃棄物のかさや重量を減容化する処理のことです。最終処分は殆どの場合埋め立て処分になりますが、エコセメント化したり、焼却灰を溶融して砂にし、再生利用を図ると言うものまであります。
 
環境省は、福島県での中間貯蔵施設の建設の最終確認を自治体から取ろうとしていますが、この中間貯蔵施設の運営管理と、最終処分の行方をPCB等の処理をこれまで行ってきた特殊会社「日本環境安全事業」(JESCO)に委ねるための法改定を行おうとしています。今国会で法改定し、「中間貯蔵・環境事業」会社に衣替えして委託してゆこうとしています。
 
この法人の下に、最終処分が進められてゆけば、新潟県の泉田知事が言うように全国どの自治体も核廃棄物の処分場になる恐れがあります。放射性物質の全国への拡散、第2のがれき広域化の画策が、環境省や国と利権で結びつく自治体にこの処分場が作られることになります。
 
汚染廃棄物の中間処理では、東日本の汚染地域では、市町村の焼却炉を使って一般廃棄物とともに、汚染牧草などを焼却したり、仮設焼却炉を作り、そこで燃やしたりして、放射性物質を大気中に放出させる動きが続いています。
 
また産廃系の汚染廃棄物も、現状放射性廃棄物へのクリアランスレベルを「100ベクレル」と「8000ベクレル」の2重スタンダード化し、実際は8000ベクレルに合わせて、焼却処理されている実態も報告されています。郡山市の「リサイクル協同組合」という名の焼却施設では、その結果焼却灰が1万ベクレルを越えるという無法状態が続いています。
 
滋賀のチップ問題は、国自体の法令無視と利権体質を良いことにそれに倣えと元役人が儲けに走ったすえ、処理できなくなったものを不法投棄したものです。
 
最終処分では、汚染度の高い焼却灰などの処理として、エコセメント化や砕石利用などの手段が、東京日の出エコセメント工場、埼玉彩の国のヤマゼンや広島県でのツネイシカムテックなどで行われようとしています。
 
これら全体を俯瞰した今後の対策と私たちの連携が必要とされています。
 
2)政官業学報への-反撃が始まった。

福島原発事故による放射能汚染によって、甲状腺がんの患者が、疑いも含め104人になりました。放射性物質を焼却してもバグフィルターを備えていれば99.99%除去できるというドグマが、今も幅を利かせ、放射能汚染物が焼却され、第2の被爆汚染が進んでいます。
 
こうした中で、日本の環境行政は、先に見たように事業者との利権によって結びつき、大学や研究機関が行政に、研究費などの点でコントロールされ、マスメディアは、御用学者たちによって、科学的事実を報じることを大きく閉ざされています。
 
そこで私たちは、原発事故による被爆にどのように対処しなければならないのか?今私たちの周辺で起きている事実は何か?それを調べて行く活動と間違った情報を発信し続ける御用学者への批判を行ってゆく必要があると考えています。
 
前者の活動を続けてきたのは、木下氏や松井英介岐阜環境医学研究所所長たちです。木下氏はマスメディアの出身者であり、彼の存在自体が現状のマスメディアへの批判の存在証明になっています。
 
一方御用学者への批判は、できるだけ公にし、学会などでも問題にし、反批判に耐えるものにすることが必要です。確信犯的な御用学者たちを審議会や公職から追放すれば、マスメディアが、科学的事実を自由に書くことができる道筋を作ることができます。
 
御用学者たちへの批判は、すでに始まりつつあります。月刊誌「紙の爆弾」10月号「山下俊一に公職辞任を求めるこれだけの理由」では、安定ヨウ素剤の配布を中止させ、現在の甲状腺がんの多発の要因を作った山下俊一福島県立医科大学副学長の免職要求を求めました。ジャーナリストでゴフマン研究会の蔵田計成氏に取材し、記事にしました。
 
また放射性廃棄物を含め、市町村の焼却炉で焼却してもバグフィルターが備えてあれば、99.99%除去できるという環境省の見解に対して、先日開かれた廃棄物資源循環学会において、岩見億丈医師が反対論を発表。
 
御用学者大迫政浩と論戦。論破しました。環境省の99.99%除去論を支えとなっている学会で、その論拠を打ち破ったのです。岩見氏は衛生学会や神経学会の会員でもあります。
 
私自身も環境省の99,99%論を批判するぜん息に関する論文を発表しました。
 
5.最後に

今回の問題に戻って、私は昨年来、がれきの問題と復興資金の流用化について報告本を出そうと考えてきました。がれきの広域化との闘いは、史上まれに見る市民活動だったと思っています。そこでがれきの問題にかかわり見えてきた官僚機構の問題と私が見た範囲で広域化との闘いの大きな流れを報告したいと思ったのです。
 
そうすればがれき問題に係わった多くの皆さんが、どのような位置で格闘されていたかの参考にしていただけると考えたからです。ところが今年に入っても、岩手、富山、大阪、福島など飛び歩いているうちに日時が経過し、ようやく最近になって、とっかかりの目途がついたばかりです。
 
「あざらしサラダ」さんからお話が合った時には、多少かぶる問題でしたが、私自身まとめていて、書ききれない問題が山ほどあり、別の人がまとめれば違った視点での見方が世の中に提案でき、がれき問題についての全体像がよりはっきりするのではと思いました。
 
また各地域ごとの活動状況やその中でのエピソードや問題提起などは、そこで闘った人しか書けないものであり、その面でも皆さんが報告してくださるのは有難いことだと思いました。これまでの市民活動を見ても、”終わった”後の報告は、殆ど見たことがありません。その点に注力してくださる方は、実に貴重な存在です。
 
「あざらし」さんは、これまで、ネットのブログ上で、私たちが報告している問題も含め、分かりやすく、ビジュアルに表現してくれ、がれき問題に反対している市民だけでなく、一般の人にも理解できる内容で報告を続けてくれた貴重な人だと、私のようなアナログ中心の人間は感謝していました。
 
特に私自身が東京新聞の「こちら特報」に頼んで書いてもらった「広域処理、来月末で大半終了」(2013年2月)は、日本報道検証機構からチェックを受け、まるで誤報であるかのように取り扱われましたが、アザラシさんは、素早く見事に反論し、チェックしたほうが誤報だと指摘しました。
 
また今係争中の岩手県を相手にした行政訴訟では、情報公開で入手した何十枚もの書類を点検し、行政と業者の入札における癒着関係をあぶりだしてくれました。
 
一方木下黄太氏は、今回も紹介しましたが、がれきの問題では、岩盤のような日本社会に鋭く切り込み、がれき反対運動の基礎作りをした人です。従来の市民活動では考えられなかったネットを駆使し、ネットを媒介にした連携によって、各地の闘いが広がるのを支えていった、その意味で、ひとつの時代を作り上げた人です。
 
実際私の経験では、ごみ問題では、100名の方に参加してもらう集会を企画するには、実行委員会などを作り、3ヶ月以上の準備期間が必要でした。ところが2011年の年末の際に川井和子さんが企画した静岡県の3日連続の私の講演会(1月8~10日)に数百人の方が参加したのには、私も驚きました。
 
正月休みを除けば、わずか1週間の準備期間しかありませんでした。私自身は、世間に知られている人間ではなく、ネット時代をそのとき痛烈に感じました。
 
そうしたネット社会の時代を予知し、動きを作ってきたのが木下氏だったのです。
 
本来ならばがれき問題は彼の活躍を抜きに語れない人物です。時間があればぜひ放射能汚染への防御の闘いとがれき問題、その闘いの中から見えてきたものについて、報告いただきたいと思います。
 
「チェルノブイリ被害の全貌」(ヤブロコフ博士他)が、山下俊一たち御用学者たちを追い詰めるのに、役立っていることを私は蔵田さんから教わりました。「福島の被害の全貌」をまとめてゆける状況を準備し、私たち自身も手がけて行くのは、次世代への役割であるように思います。
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参考記事:

記録集「平成がれき騒動」
発行 にいかわ未来
http://niikawamirai.jimdo.com

あざらしサラダ(愛知県がれき受け入れ問題)ブログ
2014年 07月 31日
愛知県の「震災がれき広域処理反対運動」に参加した皆さんへ


2014年10月1日水曜日

20141001 青木泰さんからのメール:バグフィルターで99.99%除去の環境省の定説 学会で否定論文発表


今日午前中に届いた青木泰さんからのメール、掲載させて頂きます。
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差出人: 青木泰
日時: 2014年10月1日 11:20:01:JST
件名: バグフィルターで99.99%除去の環境省の定説 学会で否定論文発表


皆様へお世話様です。

廃棄物資源循環学会でのバグフィルターで99・99%除去論に真っ向から反対する論文が過日広島工業大学で行われた廃棄物資源循環学会(9月15~17日)で発表されました。

バグフィルターでの除去論は、水銀の時にも99.〇〇%などと発表されました。
この見解そのものが問われる事態が始まっています。

発表したのは宮古市の岩見億丈医師(医学博士)。内容をご報告します。
また拡散お願いします。

青木

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廃棄物資源循環学会研究発表会

環境省の「バグフィルターで99.99%除去論」を批判発表
発表会場で“大論争”

 2014年9月23日     環境ジャーナリスト 青木泰

1)環境省の定説を否定する論文発表

廃棄物資源循環学会(以下学会)の第25回研究発表会(20140915~17)で、宮古市の岩見億丈医師(医学博士)が発表した「放射性物質を処理する焼却炉周辺の空間線量率に関する研究」が会場内外を通して大きな反響を呼び、今波紋が広がりつつあります。

この発表の中で、環境省の従来の定説「放射性物質を焼却しても、バグフィルターで99.99%除去可能」の間違いを岩見医師が、ほぼ体系的に指摘しました。(注1:岩見医師の当日のプレゼンと発表論文http://sanriku.my.coocan.jp/

この中で岩見氏は従来の環境省の定説を、それに根拠を与えた国立環境研究所の大迫政浩センター長にちなんで、「大迫仮説」と呼び、それに対して「岩見仮説」の是非を問う形で発表しました。

その結果会場にいた大迫氏も質疑に立ち、自らの仮説の弁明を行うなど廃棄物資源学会開設以来ともいうべき“大論争”になりました。

廃棄物資源循環学会も設立当初は、ごみの焼却の是非を問う論文や発表が多くなされていました。
またダイオキシン発生の原因物質として塩ビ系のプラスティックを上げる実験例の一方で、食塩が原因とする発表などが行われ、白熱の議論が交わされたことはありました。

しかし最近は、焼却炉メーカの研究者やごみ焼却を是とする学者の発表が優位を占め、環境省の方針を批判するような発表は、影を潜めていました。

そうした中で、岩見論文は、環境省の定説を根底から批判する論文を発表し、そのプレゼンの中で、定説に根拠を与えていた大迫仮説を真っ向から批判したのです。

その場には、大迫仮説が根拠とした京都大学の高岡昌輝教授も参加していたこともあって、議論はいやが上にも盛り上がりました。
99.99%論を巡る岩見武蔵対大迫小次郎の巌流島の対決のような“真剣勝負”が行われたのです。

2) 焼却は安全の論拠が、99.99%除去論

がれきを広域化して、全国の市町村の清掃工場や被災市町村の清掃工場で焼却処理してよい環境省の方針は、放射能汚染物を清掃工場の焼却炉で焼却しても、「バグフィルター等排ガス除去装置を備えていれば、99.99%除去できる」と言う考えが根拠になっていました。

この考えは、震災・原発事故直後に環境省が、開催した「災害廃棄物安全評価検討委員会」(有識者会議)で承認されたことになっています。

この考え方については、2011年の発表当時、インターネットなどを中心に疑問が出され、私も週刊金曜日や月刊廃棄物などで批判して来ましたが、ほぼその問題に決着をつけたのが、東京新聞「見切り発車で災害がれき処理」(120121)の掲載記事でした。

東京新聞は、有識者会議の議事録での酒井伸一京都大学教授の発言「机上の仮定の発言が多い」と言う批判意見を紹介し、環境省がこの意見を黙殺して、強引に99.99%除去できると言う結論が導き出されたことを指摘し、「焼却ありき、密室で決定、『見切り発車』の災害がれき処理」と報じたのでした。

この記事以降ネット上では、賛成論は勢いをなくしたものの、そのような議論の行方にはお構いなく、環境省は、2012年2月~3月にかけて「絆キャンペーン」を展開し、受け入れ自治体に対しては、環境省の職員を派遣し、「バグフィルターで99.99%除去」できると説明させたり、自治体の職員に説明するように指示し、がれきの広域化や被災市町村での汚染廃棄物の焼却を良しとしてきたのです。

バグフィルター問題については、環境省に考えを直接問いただす必要があるという声が、多くの市民や市民団体によってもたらされ、2012年3月26日に国会議員会館において、環境省との交渉が実現しました。

その集会の場で、野田隆宏氏が島田氏の試験焼却事例からバグフィルターでの除去率は、65%と言う計算結果を発表し、環境省に示した経過もあります。(326政府交渉ネットワークはその集会を実現した市民で結成され、がれき問題の全国のネットワークの中軸を担いました。)

それ以後も、「バグフィルター(バグ)で99.99%除去できる」論には、

・ガス化した放射性物質は、バグで取れない。
・バグは、確率的にしか取れない。(梶山ごみ弁連会長)
・バグメーカに問い合わせても、「放射性物質を除去できると保証できない」という声が返ってきた。

というように除去論には、批判的な意見が明らかになっていましたが、環境省はそれに対して、正面から答えることなく、国立環境研究所や京都大学、そして廃棄物資源循環学会の権威を盾に批判に耳を貸さず、がれきの広域化や放射性物質の焼却を進めて来たのです。

3) 99.99%除去論とPM2.5

環境省の「バグで99.99%除去論」は、廃棄物資源循環学会と、切っても切れない関係にあります。

この学会は、日本の巨大焼却炉メ―カの研究者が会員となっていて、焼却部会なども作られ、日本の廃棄物の焼却の行方についてこの学会が大きな影響力をもっていたからです。

また99.99%除去論は、この学会で発表された論文が、直接的な根拠になっていました。その内容上の“仲立ち”をしたのが、現在では誰でも知っている大気汚染物質であるPM2.5(2.5ミクロン以下の微小粒子)です。

環境省の考え方、大迫仮説のベースになったのは、高岡昌輝京都大学助教授(現教授)他の「都市ごみ焼却施設から排出されるPM2.5等の微細粒子の挙動」と言う廃棄物資源循環学会の2010年の発表論文でした。

高岡助教授らが、この研究を行うきっかけは、都市ごみ焼却施設から排出されるPM2.5が、ぜん息の原因物質になっているという米国のEPA(環境保護庁)の発表に在ります。

この発表を受けて、日本の清掃工場では、焼却してもバグフィルターがあれば、発生するPM2.5(2.5ミクロン以下の微細粒子)は、99.9%除去できると発表したのがこの論文でした。(この論文は、清掃工場でごみを焼却しても、周辺にPM2.5は、放出されないため、喘息等の原因にはならないというための研究発表でした。)

ではなぜPM2.5が、99.9%除去できれば、放射性物質も同様に99.9%除去できるのでしょうか?

そのことを、理屈付けたのが、大迫政浩国立環境研究所・廃棄物資源循環センター長です。

大迫氏は、環境省の先の有識者会議での議論をリードし、この高岡論文をベースにして、微細粒子であるPM2.5が99.95除去できるなら、放射性物質もそれに付着し99.9%除去できるとしたのです。

では、環境省や大迫氏らが、放射性物質の除去が問題になっているときに、PM2.5の除去を問うた論文をベースに持ち出してきたのでしょうか?

実は、廃棄物を取り扱う環境省は、放射性物質については、取り扱わないという廃棄物処理法の下に行政運営してきた経過があります。

日本の行政機構の中で、放射性物質や放射能汚染物質は、クリアランスレベルと言う国際基準の下に、取り扱いの区分けを行ってきました。たとえばセシウムの場合、kgあたり100ベクレル以上は、放射能汚染物として特別に保管する事が義務付けられていました。

それ以下は放射能汚染物ではない廃棄物として、清掃工場などで取り扱ってよいことにしてきました。
廃棄物を担当分野とする環境省は、そのため、放射能物質はこれまで取り扱いの対象外としていたため、「知見もノウハウもない」(大迫氏)状態だったのです。

そのためもあって、間に合わせ的にPM2.5に関する高岡論文を引き合いに出し、99.99%論を展開したと考えられます。

 岩見医師の発表は、9月16日の午前に行われましたが、その会場には約150人が詰め掛け、環境省の99.99%除去論に大きく係わった高岡教授、大迫氏他の人たちも参加し、静かな緊張感の高まる中で発表は行われました。

4) 大迫仮説(99.99%除去論)と岩見仮説(80%除去論)

岩見医師の研究発表では、大迫仮説(=99.99%)に対して、宮古市の焼却炉のデータを基に計算すると、80%しか除去できていないと指摘し、鮫川村の指定廃棄物の焼却の事例では、放射性セシウムの灰中回収量は、53%~78%でしかないことを報告しました。

では、なぜこのような違いが出たのでしょうか?

通常は焼却炉に投入した放射性物質(A)が、バグフィルターや焼却残渣(焼却灰)等にどれだけ捕捉されたり、残っているかを計量(B)し、それを差し引いたもの(A-B)が、煙突から放出された量と推計します。

投入した放射性物質とバグフィルター等で除去された放射性物質量の差を求めれば、煙突から大気環境中に放出される放射性物質の量は、引き算で求めることができます。

ところが大迫仮説では、バグフィルターの前で測った量(B1)とバグフィルターの後で測った量(B2)を計り、その比(B2/B1)を,計算し、99.99%などと割り算で計算していたのです。

割り算では、絶対値を求めることはできません。

バグフィルターの前で測定された微細粒子の量が、バグフィルターの後では、極端に減っていれば、それだけバグフィルターで捕獲されていたことになり、この計算方法は、一見妥当性を持つように見えます。

しかしこの方法は、バグフィルターの前後での計測が、放射性の超微粒子や排ガスを逃さず、捕捉しているということが、大前提になっています。

学会での岩見医師は、高岡氏の論文を調べ、この測定に使ったろ紙や集塵方法は、0.3ミクロン以上の粒子の捕獲しか保証出来ないことを指摘し、この測定方法を前提とした99.99%論の誤りを指摘したのです。

放射性物質を800度前後で焼却すると、放射性物質は、微細化し、一方でガス化することは知られています。

大迫仮説では、微細化した粒子は、0.3ミクロン以上しかないことを暗黙の前提とし、計算していたのです。それでは、0.3ミクロン以下の超微粒子は、バグフィルターの前でも、後でも捕獲されないため、バグフィルターを通過し、煙突から環境中にどれだけ放出されるかの実態は分りません。

岩見医師の指摘は、この点を具体的に突いたものでした。

では、0.3ミクロン以下の放射性物質は、どれだけ存在するのでしょうか?これに対しても岩見医師は、全体の20%近くに達することも指摘しています。

私たち自身も、改めて大迫仮説の具体的な問題点に気が付きました。

岩見医師の主張は、さらに続き、煙突の中で捕獲したガス中にどれだけ放射性物質が含まれるかを調べる高岡氏らの液体中を通過させる実験も、純水を短時間通しても、ガス中の放射性物質は、簡単には、溶解しないこと。液中を通過する放射性物質がどのように捕獲できるかの予備試験もなく、簡単に検出されていないとしていた間違いを指摘しました。

岩見医師の指摘は、環境省の定説の根拠にしていた大迫仮説が、いかに出鱈目のものであったかを白日の下に示しました。

5) 学会での論議

この発表に対して、国立環境研究所の倉持秀敏研究員と大迫政浩センター長から質問と反論が行われました。

しかし結論を先取りして報告すると、まったく本題を外した拍子抜けする質問でした。

大迫仮説の問題は、超微小粒子の存在を無視した仮説であったことが岩見氏によって明らかになりました。ところが、2人の反論は、その点について、超微小粒子の存否については、直接触れず、実質存在を認めた上で、粒子が微細になれば、ブラウン運動をおこし、大きな粒子の塊のように挙動するため、バグフィルターで捕捉されることになると反論したのです。

倉持氏の場合、教科書に載っているとまで付け加えた反論でした。

放射性物質を焼却して超微小粒子が生成されたとしても、実質微小粒子は、存在しないのだから、大迫仮説で良いという主張でした。

しかしこれに対しては、岩見医師から倉持氏のブラウン運動論は、放射性物質で実際に実験を行ったものではなく、根拠のない仮定の話でしかないという鋭い批判が投げかけられました。

一方大迫氏は、ガス状のものは、通過させる液体の条件を代えた時に、どのように捕獲率が変わるかの実験に入っているというやぶへびな発言を行いました。
岩見医師からは、そのような実験をしないまま99.99%除去できると言う大迫仮説を独り歩きさせていることに、改めて批判が行われました。

結局岩見医師の今回の論文発表と発表会を通して、環境省の定説になっている大迫仮説が、超微小粒子やガス化した放射性物質の存在を無視し、計算していたこと。
事実を検証する実験を行わず、都合よく集めた理屈によって、バグフィルターを付加すれば99.99%除去できると言う定説が作られていたことが分かりました。

そして80%しか除去できていないという岩見仮説が、実態に近いことも分かってきました。

この岩見氏の発表分科会が、終了後、この件で大迫氏、高岡氏、岩見氏そして青木でさらに話し合いを行い、青木からは、廃棄物資源循環学会で、この件でもっと掘り下げる討論会を持つことを提案し、岩見氏からは詳細実験を共同でやらないかという提案を高岡氏に行いましたが、その場では、大迫氏、高岡氏から前向きの返事をもらうことができませんでした。

最後に、放射性物質を焼却して処理するなどと言うのは、世界で初めてのトンデモ方針であり、安全性の大きな根拠となっていた99.99%論が、学会での論議でも今回実質的に破たんしたと言えます。

環境省はこの事実を踏まえ、放射性物質やその汚染物の焼却処理は、即刻止める必要があると考えます。

なお、今回の岩見医師の論文は、岩見仮説80%除去論に立った時、残りの20%は、どのように大気中に拡散するのかを調査した報告が、前半部となっています。宮古の焼却炉の周辺の空間線量を計り、風下方向に、放射性物質の放出によるものとみられる変化を見つけ、報告したものです。

また、このような岩見医師らの研究発表を通して、清掃工場で発生するPM2.5は、99.99%除去できると言う高岡氏らの論文が、根本的に見直しする必要があることが分かり、青木は、PM2.5が大気放出されている証として、清掃工場周辺の小学生への喘息の影響について学校健康保険法に基づく疾病調査データを整理し、発表しました。(注2:都市ごみ焼却炉等から排出されるPM2.5による生徒・児童への喘息発症への影響)添付参照。

PM2.5は肺の奥まで吸入されるため、ぜん息の発症に影響がありますが、それが放射性物質に代わると、ぜん息だけでなく、内部被曝による放射性疾患をもたらすことが考えられ、その点についても、今回の論文を通して警鐘乱打しました。

添付資料:

注釈1:岩見医師の当日のプレゼンと発表論文 http://sanriku.my.coocan.jp/


(第25回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2014
 C6−4「放射性物質を処理する焼却炉周囲の空間線量率に関する研究」
 岩見億丈、斎藤正俊、小堀内陽、笹井康則 http://sanriku.my.coocan.jp/C6-4.pdf
 発表スライドと解説 http://sanriku.my.coocan.jp/140916iwami.pdf


注2:「都市ごみ焼却炉等から排出されるPM2.5による生徒・児童の喘息発症への影響」
    青木泰、西岡政子 
    https://docs.google.com/file/d/0Bz2-gPAwzHgNVHNBS1lsa1Vndnc/edit 


 「巻頭言 持続可能な廃棄物処理システムの強靭化」
 (独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 大迫政浩 
  廃棄物資源循環学会誌 Vol. 25, No.4, pp 229-230, 2014

  第25回 廃棄物資源循環学会 研究発表会
  2014年9月15日(月・祝)~9月17日(水)・広島工業大学




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