2010年3月8日月曜日

資料「廃プラスチック焼却の問題点」2010/3/6講演シンポジウム by 循環資源研究所 所長 村田徳治氏

廃プラスチック焼却の問題点
 循環資源研究所 所長 村田徳治

 東京23区は、それまで禁止していた廃プラスチックの焼却を2008年度から開始した。200811月、東京23区清掃一部事務組合が発表した「北清掃工場 廃プラスチック混合可燃ごみの焼却実証確認実施報告(3回目)(20086月実施)」の「 はじめに」に以下のような記述がみられる。
 「平成204月から北区荒川区板橋区及び足立区の全域において、廃プラスチックのサーマルリサイクルが本格実施された。これに伴い、サーマルリサイクルによる廃プラスチック類を含んだ可燃ごみについて「廃プラスチック混合可燃ごみの焼却実証確認実施要綱(平成18515日)」に基づき、焼却処理を行った際の環境への影響や施設の安全性等について、3回目の検証を実施した。」
 本稿では、2008年度のデータが記載されている清掃工場9か所の環境報告書に基づき、廃プラスチック焼却の実態とサーマルリサイクル?とは何かを検討する


法規制値免罪符にならない
 北清掃工場廃プラスチック混合可燃ごみの焼却実証確認実施報告(3回目)(20086 月実施)によれば、工場の運転管理用の自動測定装置計測結果において、一酸化炭素の計測値(平成20518日及び62日並びに68) が維持管理基準値100ppmのところ一時的に120.5ppm 及び161.7ppm 並びに197.6ppmとなった。これら原因は、ごみ質の急激な変化により発生した。直ちに燃焼空気量の調整や投入ごみ量の調整を行い燃焼状態の改善を図った結果、何れも、2時間目以降は正常な燃焼状態に回復した。それ以外の時間帯とその他の測定項目はすべて法規制値及び協定値を下まわった。
・各運転データでは、1 日当たりの焼却量は減少しているが、低位発熱量(ごみカロリー)の増加に伴い、焼却量当たりの発電量は増加が見られる。その他の運転データは、実施前と同程度であった。」とある。
 この報告書以外に23区の各清掃工場から、環境報告書が公表されている。しかし、これらの報告書は清掃工場独自で作成するため、報告される内容も単位もバラバラで各清掃工場間に関連が無く、データを相互に比較できないものも多く、役に立たないデータもあり、何のための報告書なのか不明である。また、工場によって購入電力であったり、受電電力であったり、買入電力であったり、その用語表記も統一されていない
 新しい工場と古い工場とでは、設備も操作も異なっているので、操業データは異なって当然であるが、原単位を出すために必要な単位が、購入電力でいえば、KwhであったりMwhであったり購入都市ガスでは、であったり千であったり上水道ではであったり、トンであったりでは、統計をとる方が混乱したり、間違えたりする。もっともそれが狙いであると言われればそれまでであるが
 各清掃工場を統括している東京23区清掃一部事務組合では、さまざまな数値を比較し、統計資料を作成しているはずであるが、不便を感じていないのであろうか。統一した方が比較しやすいはずなのに、なぜ表示の統一を指導しないのか不思議である。
 環境報告書で唯一、単位が共通しているのは、排出ガスのデータくらいであ。排出ガスが、さまざまな法規制値に適合しているからといって、都市ゴミ焼却を正当化する根拠にはならない。なぜなら、地球温暖化防止対策・ドイツなみのエネルギー回収率など、これらの点はほとんど考慮されていないからである。

公表されないサーマルリサイクル率
 ビン・カン・ペットボトルなどでは、リサイクル率が公表され、ドイツのように定めたリサイクル率が達成できない場合は、デポジット方式による回収が義務化されてい国さえある
 日本の場合、サーマルリサイクルを標榜していながら、サーマルリサイクル率の報告が、いずれの報告書にも無い。熱力学の法則を持ち出すまでもなく、熱は高温から常温へと、一方的に流れるものであって、常温になってしまった熱を高温に戻しリサイクルすることはできないのである。
 世界から嘲笑の的になっいるサーマルリサイクルという和製英語は、熱回収(サーマルリカバリー)またはエネルギーリカバリーとすべきであると筆者は以前から主張してきたが、東京23区清掃一部事務組合、冒頭の報告書にもあるように頑迷にサーマルリサイクルという用語を改めようとしない。頑迷固陋にサーマルリサイクルに固執するのであれば、どうやって計算したらよいのか理解できないが、サーマルリサイクル率を公表すべきである。ちなみにドイツでは熱回収率は75%以下の都市ゴミ焼却炉を稼働させることを禁止している。
 ドイツやデンマークでは、100年以上前から都市ゴミ焼却から熱と電力の双方を回収するコージェネレーション(熱電併給システム)が普及し、熱回収率は75%以上を維持している。
1965大阪市西淀工場スイスからの導入技術で復水タービンによる2700kwの発電機付きのストーカ炉200t/d×2基建設されたのが、日本におけるゴミ発電の最初である。この炉の回収スチームは当初計画では350℃、27.5kg/c㎡Gであったが、稼働後しばらくしてボイラーチューブが腐食し破裂した。塩化ビニルを始め有機塩素化合物の焼却に伴う腐食性の塩化水素発生が原因である。その結果スチーム温度は300(チューブ表面温度で 400)以下に制限することになった。これが、日本のゴミ発電効率を10%程度に止める原因のひとつになっている。
 その後、1次1973年・2次1978年オイル・ショックを経て、焼却炉の省エネルギーや熱回収率向上が検討はされたが、スチーム条件の向上には至らなかった1995年稼働の埼玉県東部清掃組合のストーカ炉200t/d×4基が、ようやく380℃、38kg/cm2G12,000kw×2基、発電効率>20%を実現した。しかし、20%程度エネルギー回収しても、残りの80%を捨てているようでは、エネルギー回収とは言えない。ただし、熱電併給システムを採用しない限り、発電だけで75%以上のエネルギー回収は困難である。
 東京23区清掃一部事務組合は、各清掃工場の熱回収率を測定し、公表すべきである。

   清掃工場におけるエネルギー使用量
 廃プラスチックを焼却する理由に、ゴミ埋立地から発生する廃プラスチックに起因する地球温暖化ガスであるメタンが発生しないので、廃プラスチックを焼却しても二酸化炭素はほとんど増えないというふれこみであった。しかし、廃プラスチック焼却によるCO2増加以外に、清掃工場における電力や都市ガスの購入量は、膨大あり、ここからもCO2発生しており、二酸化炭素削減のための東京都方針からも大幅に外れている
 ちなみに、日本最大の焼却量を誇る新江東清掃工場における2008年度の実績は、購入電力63000Mwh/年・購入都市ガス404.000/年・上水道123000/年である。年間のゴミ焼却量が356000トンであるから、ゴミ1トン処理するのに177kwhの電力を購入していることになる。一般家庭の月平均電力消費量が375kwhといわれているので、この電力は無視できないである。ゴミ1トン処理するのに要する電力原単位は、各清掃工場まちまちである新江東清掃工場以外でも、有明112.4kwh/t大田93.5kwh/t板橋43.7kwh/tと、この3工場消費電力原単位高い
各清掃工場が購入している東京電力の電気は、その70が化石燃料を使った火力発電で賄われているこのような電力を大量消費することは、地球温暖化防止に逆行するものであり、しかも熱回収が充分に実施されていない状態で、廃プラスチックを焼却し続けることは、大問題である。
 新江東清掃工場における都市ガス消費原単位、ゴミ1トン当たり1.13と他の工場に比較してかなり高い。最高は、大田工場の20.2/t、2位は多摩川工場の17.2/tである。他の工場に比べて、抜群に原単位が高いのは、灰溶融施設を有するためと考えられる。都市ガスも化石燃料であり、都市ガスを大量に消費することは地球温暖化を促進することになる
廃プラスチック焼却で増える薬剤購入量
 ほとんどの清掃工場の環境報告書には、ボイラー管理・排ガス処理・汚水処理などに使用する薬剤のデータが記載されているが、豊島清掃工場にはそれがない。また、当然、各工場で購入していると予想される重金属固定剤についての報告があるのは、葛西清掃工場のみである。また、ダイオキシン除去や排水処理に使用する活性炭も大田と多摩川のみその使用量を報告しているが、他の工場でも使用しているはずであり、報告すべきである。
清掃工場でゴミ1トンを焼却するのにかかる費用は、公表されていないが、収集から最終処分までトータルで56000といわれている。
 新江東清掃工場2009環境報告書によれば、「平成20年度は、廃プラスチックサーマルリサイクルの影響で増加した酸性ガスの処理のため苛性ソーダの使用量が増加しました。」とある。
2008年度から廃プラスチック焼却した結果、使用薬剤はどのくらい増加したか、杉並清掃工場の環境報告書によると2007年度の苛性ソーダ使用量が445,222トンであったものが、2008年度では一挙に666,584トンに増加している。なんと33増加している。
 廃プラスチック中に含まれる塩化ビニルや有機塩素化合物を焼却すると塩化水素が発生、これを中和処理するために、苛性ソーダや消石灰を使用するので、廃プラスチックの焼却が増えれば中和剤も増加するのが、当然である

原単位から見た23区清掃工場
 もともと原単位は、鉱工業製品の一定量を生産するのに必要な、原材料・労働力・動力などを比較分析し、合理的な生産に寄与するために考えられた指標である。近年、省エネ効率を比較するための指標としてエネルギー原単位が注目された。温暖化対策で、日本の産業界が、「エネルギー原単位を指標にCO2の削減を進めるべき」との提言が浮上している。CO2の排出量を総量ではなく「活動あたりの排出量」で規制する考え方である。この方法によると排出規制が経済の発展を阻害しないため、発展途上国も納得できる削減目標を設定できるという。一方で、この指標は「目標として甘すぎる」とする批判もある。
 清掃工場は、焼却量に差があり、新江東清掃工場(356t/年)は多摩川清掃工場(75.5t/年)4.7倍も多い。したがって、これらの工場を相互に比較する場合、原単位を用いる必要がある。比較した清掃工場のうち、ごみトン当たりの購入電力が最も多い新江東清掃工場(177kwh/t)最も少ない豊島清掃工場(9.9kwh/t)とでは、17.9倍もの開きがある。また、都市ガス購入では、大田第1清掃工場が2076/tと最も多く最も少ないのが豊島清掃工場(0.51/t)であり、なんと4070倍もの差がある。
*二酸化炭素の原単位
 二酸化炭素排出量については、環境報告書に記載があったり、なかったりで統一がとれていない杉並と豊島の報告書には二酸化炭素排出量の報告はない。目黒はゴミ焼却量が96,500トンで、大田第1は102,600トンと大差がないのに目黒の二酸化炭素発生量は、大田第1の117,561トンに対して840トンと極端に低く、原単位は0.0087CO2t/ゴミtである。
 生ゴミのような生物由来の有機物は、二酸化炭素の増加に影響がないので、廃プラスチックと補助燃料として使用した都市ガスや灯油など燃焼によって発生する二酸化炭素のみを報告すればよいということで、発生原単位をあらかじめ決めてあるようである。例えば板橋と葛飾の原単位は0.38t/ゴミtと一致しており、大田と多摩川は0.17t/ゴミtと一致している。新江東清掃工場の原単位も0.073t/ゴミtと極めて低く、清掃工場の二酸化炭素発生量には信ない

各清掃工場における二酸化炭素排出量と原単位


二酸化炭素 
単位 トン
CO2原単位 
CO2t/ゴミt
新江東
  26000
0.073
板橋
  57320
0.38
葛飾
  51490
0.38
大田第1
177561
0.17
有明
  10262
0.1
目黒
      840
0.0087
多摩川
  13045
0.17

各清掃工場の基礎データ

新江東
板橋
葛飾
杉並
豊島
大田
有明
目黒
多摩川
焼却量 千t A
356
151.4
138.4
136.7
110.6
102.6
100.2
96.5
75.5
購入電力Mwh
63,000
6,617
2,369
1,624
1,100
9,596
11,261
1,501
1,453
電力/A
177
43.7
17.1
11.9
9.9
93.5
112.4
15.5
19.2
都市ガス千m3
404
838
561
78.1
56.5
2,076
31.7
72.6
1,300
ガス/A
1.13
5.8
4
0.57
0.51
20.2
0.32
0.75
17.2
苛性ソーダ t
1,300
825
497
666.6

854
341
492
500
NaOH/A
3.65
5.45
3.59
4.88

8.32
0.85
5.1
6.62
消石灰 t
730
599
620



481

203
Ca(OH)2/A
2.05
3.96
4.48



4.8


活性炭 t



12

76


55
C/A



0.09

0.74


0.73
アンモニア t
470
206
80
9.37

21
112
70
60
NH3/A
1.32
1.36
0.58


0.2
1.12
0.73
0.79
塩基度調整材

2,557t







重金属固定剤


200t






硫酸バンド t







50

塩酸 t







92

灯油 kL







12

尿素水 kg



150






都市ごみ焼却とホロニックエネルギーシステム
 「日本国温室効果ガスインベントリ報告書によると、07年度の温室効果ガス排出総量はCO2換算で13億7400万トン。このうち廃棄物関係からの排出量は、エネルギー利用を含めて約4080万トン(3%)を占める。
 焼却・熱利用に伴う排出量が3320万トンで廃棄物関係の約82%弱を占めている。ごみ発電は、CO2を削減につながるとして国も支援策を強化しているが、果たしてどの程度有効であるか、その根拠は明確にされていない
 また灰溶融設備を備えた発電施設ではごみトン当たり300~400kwhの電気を消費するが、この焼却施設からの発電量は平均273kwhなので、灰溶融に要する電力は発電量を上回っている
 都市ゴミ焼却炉のうち、発電せずにゴミの単純焼却をしている施設は全施設の約8割である。
 ヨーロッパの都市ごみ焼却施設は、焼却により発生する熱エネルギーで温水を造り、バス・シャワー・暖房用に給湯している。それにひきかえ、日本の焼却施設は、迷惑施設として都市中心部から離れた人口の少ない地域に立地するのが大半であり、温水の有効な利用先がない。ちなみに遠距離給湯すると湯が冷めてしまうので給湯範囲は5km以内であり、また、温水は貯留すると冷めるので、貯蔵には都市ゴミを熱分解して生成ガスを貯留する方が好ましく、また、供給範囲ははるかに広域にすることができる
日本のエネルギー事情は、電力やガス企業の既得権益擁護が優先され、エネルギー全体を総合的に計画する行政部署ないからである。
地球温暖化防止に向かって、エネルギー回収が不充分な焼却方式は改革しなければならない


参考文献
村田德治 地球温暖化と都市ごみ焼却 月刊廃棄物2008.12月号

2010年3月6日 23区廃プラ焼却と廃プラの今後


備考:2010/3/6講演シンポジウム配布資料(36−40pp)
本資料閲覧可能サイト


↓↓↓↓

https://docs.google.com/fileview?id=0BzopYmjFsal1MzY1ZTU1ZjUtNGMwYi00MDRhLWJlMDUtYTZjZjRlZWNhN2Rm&hl=en
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コジェネレーション - Wikipedia







コージェネレーション、またはコジェネレーション (cogeneration)、英語ではcombined heat and powerともいわれる。これは、内燃機関、外燃機関等の排熱を利用して動力・ 温熱・冷熱を取り出し、総合エネルギー効率を高める、新しいエネルギー供給システム ...
ja.wikipedia.org/wiki/コジェネレーション


「23区廃プラ焼却と廃プラの今後」講演とシンポジウムの概要 by 池田こみち氏・鷹取敦氏(環境総合研究所)


3月6日(土)講演シンポジウム:講演者のプロフィール

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