2010.11.25 水銀汚染検証市民委員会結成講演会:水銀の危険性を問い、事故の原因・対策を考える」
配布資料11−17pp:
講演1)レジメ「ごみ焼却の問題点ー水銀汚染について」循環資源研究所 村田徳治
配布資料27-34pp「都市ごみのやさしい化学」(日報)村田徳治著作より2-1ごみの中の有害物質、2-2ごみの中の水銀、2-3,150-165pp。⇦
ごみ焼却の問題点 -水銀汚染について- 循環資源研究所 村田德治
2005年、世界保健機関WHOは「水銀はどんなに微量でも有害である。(mercury may have no threshold below which some adverse health effects do not occur)」と宣言した。
水銀を使用した装置や製品を使い続けることは、水銀を放出し続けることであり、水銀の毒性にさらされることになる。そうならないようにWHOは水銀を使った機器の使用を禁止し、水銀を使わない代替品を使うように推奨しているが、厳密にいえば、水銀をこれ以上使わせないということに強制力はない。しかし、技術革新により、水銀を使った蛍光灯から、水銀を使っていない発光ダイオードLEDに代替できるのである。しかもLEDは蛍光灯より省電力で長寿命である。
2010年6月11日、足立清掃工場2号炉から、自己規制値の30倍(1.5mg/Nm3)の水銀が検出された。炉を停止して排ガス処理設備を点検したところ、バグフィルターと後段の触媒反応塔に水銀が付着し、水噴霧程度では除去できないことが判明。結局バグの濾布と触媒をすべて交換する羽目となり、締めて2億8,000万円の被害となった。
7月に入って板橋・光が丘(練馬区)・千歳(世田谷区)の各工場でも自己規制値(0.05mg/Nm3)を超える数値が出て操業を停止した。
東京23区清掃一部事務組合と23特別区および東京都(環境局)の3者が連携して収集運搬業者と排出事業者への聴き込みを開始した。
「水銀を多く含む産業廃棄物を家庭ごみに混入させた」(各メディア)との見方からであった。
ごみ焼却における水銀の発生は、34年前に刊行した拙著1)で指摘してきたが、いまだに解決できず、焼却処理の問題点を露呈している。
1. 水銀の現状
鉄鋼・非鉄金属・金属製品需給統計年報(資源・エネルギー庁)によると、2001年まで水銀の需給量統計は、電気機器・計量器・無機薬品・電池材料・その他の5項目に分類されて記載されていたが、2002年から無機薬品の分類がなくなり、その他の項目に組み込まれ、その他が50%以上を占める奇妙な統計資料になってしまった。その他が50%以上を占める統計など、まったく意味がない。
環境汚染に最も関連のある無機薬品の行方を知ることが出来なくなっているのは、PRTR法(化学物質排出移動量届出制度)が制定されてから、業界擁護という配慮によって、その他に組み込まれてしまったのではないかと推測されている。
2001年から2009年の9年間に使われた水銀の需給量は69,393kgであるが、このうち回収された量は不明であり、その大半は環境中に排出されてしまったものと推測できる。
2. 常温でも気化する金属水銀
あまたある金属の中で常温で液体の金属は水銀だけである。発光ダイオード等の原料である金属ガリウムは、融点が29℃なので、夏期には液体になっている。
常温で液体の金属水銀は、常温で気化してガス状の水銀になる。因みに気温20℃における水銀蒸気の空気飽和濃度は13.2mg/m3である。したがってごみピットに水銀体温計が投入されて破壊されると水銀がピットの中で気化し、その量が多ければ、ピット中の水銀濃度は13.2mg/m3(at20℃)ということになる。
金属水銀の入った体温計のようなごみをピット内でクレーンにより、積み替え混合を行うと容器がこわれ、金属水銀がピット内に放出されると、表面張力が大きく、比重が大きい金属水銀は、ピットの底にたまり、気化を続ける。
今回の事態では、ごみピットの空気中の水銀濃度も測定しておらず、いたずらに犯人捜しをしていたようである。
水銀蒸気:ヒト吸入中毒量 1.2~8.5mgHg/m3
ヒト吸入無作用濃度 0.1mg/m3
蒸気圧および空気中の水銀飽和量
温度(℃) | 蒸気圧(mmHg)
| 空気中の水銀飽和量(mg/㎥) |
-20 | 0.0000181 | 0.23 |
-10 | 0.0000606 | 0.74 |
-5 | 0.000107 | 1.29 |
0 | 0.000185 | 2.18 |
5 | 0.000304 | 3.62 |
10 | 0.00049 | 5.57 |
15 | 0.00077 | 8.60 |
20 | 0.00120 | 13.2 |
25 | 0.00184 | 19.6 |
30 | 0.00278 | 29.6 |
35 | 0.00414 | 43.3 |
40 | 0.00608 | 62.3 |
50 | 0.01267 | 125 |
60 | 0.02524 | 247 (mg/㎥) |
80 | 0.08880 | 808 (mg/㎥) |
100 | 0.2729 | 2.36 (mg/ℓ) |
150 | 2.807 | 21.4 (mg/ℓ) |
200 | 17.287 | 117 (mg/ℓ) |
250 | 74.375 | 457 (mg/ℓ) |
300 | 246.80 | 1.4 (g/ℓ) |
356.7 | 1(atm) | 3.9 (g/ℓ) |
400 | 2( " ) |
|
500 | 8( " ) |
|
600 | 22( " ) |
|
3. ごみ焼却施設における水銀の挙動
常温でも気化する金属水銀と常温では気化しない水銀化合物とに分けて、考える必要がある。
1984年、乾電池の水銀が社会問題になった頃発表された、岩崎らの清掃工場における水銀を測定した結果2)によると、「焼却炉排気ガスの水銀濃度は、通常、0.05~0.15mg/Nm3程度のレベルを示しているが、時おり高濃度(この場合1mg/Nm3以上)のピークが生じていた。この高濃度ピークは短時間(30秒~1分程度)に生じているものである。
ベースラインの原因については、まだはっきりとは断定は出来ないが、主にごみ中の紙・布・厨芥等に含まれる水銀によるものと考えられる。」とある。
これもかなり古い資料であるが、占部らの調査3)によると、紙類に0.43mg、布類に0.47mg、厨芥物に0.33mg程度の水銀が含まれており、可燃物平均で0.41mgであった。
この水銀含有率から、排ガス濃度を推定すると(空気過剰率2.0として)、排ガス濃度は0.1mg/Nm3程度になり、測定結果とほぼ一致する。そのため、おそらく、このべ-スラインを構成する原因物質は紙・布・厨芥等に含まれる水銀とみられる。と岩崎らは推定している。また、「ただし紙・布に含まれる水銀については、本来紙・布の製造工程において使用されるカセイソーダの製造工程(水銀法)における不純物としての水銀が原因となっているのか、それともごみピット中の空気が高い水銀濃度になっているために、そこで水銀が紙・布等に吸着して水銀量を高めているのか、現在のところはまだ不明である。」とある。
岩崎らは、高濃度のピークについて、その原因を検討するために、原因の可能性のある物質の焼却時における水銀排出実態を調べている。具体的には焼却炉内に乾電池等を投入し、そのときの水銀測定チャートを解析した。
投入の方法は、ストーカ炉の燃焼段の側面の点検口を開け、3m程の鉄棒の先端に空缶をつるし、その中に乾電池等を入れ、炉内にさし入れた。水銀電池は炉内に投入後ほぼ2~3分以内に、ほぼ全量の水銀が排ガス中に排出されている。デッドボリュームを考慮した測定機の応答性を考えると、水銀電池は炉内に投入後は、ほぼ20~30秒のうちに破裂し(そのとき、音が小さくきこえる)、その瞬間に水銀はほとんど気化し、そのまま煙道をとおり、煙突から排出されているものと考えられる。
筒形アルカリマンガン電池では、水銀電池に比べて容量が大きいためか、一瞬のうちに気化することはなく、測定チャートから判断すると、ほぼ全量の水銀が排出されるのは、単1の場合で6~10分程度かかる。
このような実験から、水銀のマスバランス等を考慮すると、実際に通常の状態で得られる高濃度のピークは水銀電池等によるものであることがほぼ確認できる(水銀電池のほか水銀体温計についても同様のピークが生じるが、ごみ中に含まれる個数からは、ほとんど水銀電池であろう)。
数日間の連続測定の結果、上記の高濃度ピーク(この場合1mg/Nm3以上のピ-ク)の出現回数は1日あたり約20回であった。ただし、これは1日あたり150トン焼却できる炉についてである。また高濃度といっても、これは当然のことながら、排ガス量との関係で決ってくるものである。たとえば焼却規模がこれより大きい炉においては、ごみ組成が同じなら、ピークの濃度は低くなるであろうし、またピークの出現回数は増えてくるであろう。
また空気過剰率がこれより高い炉においては、水銀濃度はこの値より低くなることはいうまでもない。
都市ごみを焼却したときに発生する水銀については、焼却炉からポイラ(ないしは水噴射による冷却装置)に達するまでは、700℃以上の高温であるため、水銀の形としてはおそらく金属水銀ガスになっている可能性が強い。
ボイラを通過した後は排ガス温度が300℃以下になっているため、どのような水銀化合物になっているかは不明である。もちろん金属水銀のまま煙突から排出されている可能性も強いが、清掃工場のような高濃度の塩化水素の雰囲気では、塩化水銀(HgCl,HgC12)に変化していることも考えられる。
これらの水銀の化合物の組成については、まだ明らかにされていないが、除去技術と深く関係するため今後の重要な課題であろうと、岩崎らは指摘している。
無機薬品の中には、朱塗り漆器の赤色顔料として用いられている銀朱(硫化水銀HgS)がある。年間使用量は1,600kg程度であるが、破損した漆器が廃棄物となり、焼却炉で焼却されると、顔料は熱分解して金属水銀となり、気化してしまう。
HgS + O2 → Hg + SO2・・・反応温度 500℃以上
塩化第二水銀HgCl2(昇汞)は、1980年代半ばまでは乾電池に大量に使用されていたが、現在、ボタン型乾電池以外には使われなくなっており、現在、その大半は学校や研究機関で使われる試薬である。また、昔、病院で消毒用に使用していた昇汞水などが、倉庫の隅に残っていて、それが掃除などでごみとして排出される。
塩化第二水銀HgCl2は、融点277 ℃・沸点 302 ℃であり、塩化第二水銀を含むごみを焼却すると、塩化第二水銀はHgCl2となって気化する。
4 水銀の除去
岩崎らは、排ガス中の水銀の除去効率についても検討している。
当時の清掃工場には、排ガスから水銀の除去対策を行っている施設はなく、排ガスの浄化装置としては、まずダスト除去を目的とした電気集じん機(EP)があった。この他に、当時、ようやく規制基準が定められた塩化水素対策としての湿式洗浄装置やアルカリによる乾式除去装置がある程度であった。
湿式洗浄装置による除去効率については、いくつかの機関で調査がなされているが、得られた結果は、20~80%程度と非常にばらついている。
この原因は、①除去装置の構造・②洗浄液の組成・③水銀の性状(金属水銀か化合物か)に依存している。同じ水銀の発生源である下水汚泥焼却炉の湿式洗浄装置では、水銀はあまり除去されないという結果が得られている。
岩崎は、水銀の除去効率を排ガス中の塩化水素濃度及びボイラから洗浄装置までの通過時間にも大きく依存するのではないかと推測している。
廃プラスチックを焼却している23区の焼却炉内部では、塩化ビニル焼却に伴う多量の塩化水素が発生しているはずである。
ごみの中には鉄や銅があり、これらが塩化水素と反応して鉄や銅の塩化物が生成する。
この塩化物は水銀と反応して塩化第二水銀になる。
酸化反応
2Cu + O2 → 2CuO
4Fe + 3O2 → 2Fe2O3
塩化水素との反応
CuO + 2HCl → CuCl2 + H2O
Fe2O3 + 6HCl → 2FeCl3 + 3H2O
金属水銀との反応
Hg + 2CuCl2 → HgCl2 + 2CuCl
Hg + 2FeCl3 → HgCl2 + 2FeCl2
ごみ焼却炉内の燃焼排ガスに含まれている金属水銀は、原子状であるため、バグフィルターで、塩化第二銅・塩化第二鉄などで酸化・吸着されるが、排ガスは温度が高いので吸着されなかった水銀は、排ガスとともに大気中に排出される。
湿式の排ガス処理装置は、塩化水素やSO2など酸性ガスの吸収が目的なので、吸収剤として通常は苛性ソーダ溶液が用いられている。ガス状の金属水銀は、こくわずかしかこの吸収剤に溶けない。
金属水銀蒸気を吸収するためには、塩化第二鉄溶液か塩化第二銅溶液、水銀分析に用いられる過マンガン酸塩の硫酸酸性溶液のような酸化剤がを用いた溶液を使用しなければならない。
水銀問題の解決には
焼却処理からの脱却
筆者が1975年以来、主張し続けている水銀の使用禁止、使う場合には、生産者責任による回収を義務付ける必要がある。一方、技術革新により、蛍光灯のように水銀を使わない、省エネルギーの照明である発光ダイオードLED開発のような成果があがる場合もある。
廃棄物処理を現行のような焼却処理に依存していく限り、今回のような汚染事故は今後も起きる可能性は大きい。
焼却に代わる熱分解ガス化炉では、焼却排ガスよりはるかに少ない量の、空気で希釈されていない可燃ガスが、得られるの
で水銀の除去は容易になり、大気汚染を防止することができる。
現在、横浜市や神戸市では生ごみを焼却せずに、下水処理場でメタン発酵させて、生成したメタンを利用する試みが計画されている。生ごみから発生したメタンを都市ガスとして使用することにより、現在、輸入に頼っている天然ガスの輸入量を減らすことができ、地球温暖化防止に貢献することになる。
新潟県長岡市では、1999年から長岡中央浄化センター(終末処理場)で、下水汚泥消化施設から発生するバイオガス(メタン約62%)を場内で精製・熱量調整し、北陸ガスの工場へ都市ガスの原料として約1,000世帯分にあたる年間59万m3供給し、CO2の削減効果は1,200tと計算されている。さらに家庭系・事業系生ごみからのバイオガス回収による地域エネルギーの創出を図る。
現在、焼却や埋立処分されている生ごみを有効利用することで、処理に伴う環境負荷も低減できる。同市では現在、PFI(BTI方式)事業の選定に向けた作業を進めており、2009年内に入札説明書を公表し、2013年4月からの稼働を予定している。事業の中核となるバイオガス化施設は、生ごみをメタン発酵させてガスを回収するというもので、施設規模は65t/日を想定。市が回収した家庭系生ごみのほか、飲食店や卸売・小売業から排出される事業系生ごみなど年間2万3,600tを予定している。
〔参考・引用文献〕
1)村田徳治:産業廃棄物・有害物質ハンドブック 東洋経済新報社 P83~84/1976
2)岩崎好陽:村田徳治監修 廃乾電池対策のすべて
地域交流センターP59~67/1984
3)占部武生他:都市と廃棄物、9(2)P17~38(1979)
4)岩崎好陽他:第24回大気汚染学会講演要旨集 P570(1983)
5)岩崎好陽他:第26回大気汚染学会講演要旨集 P415(1985)
6)岩崎好陽他:大気汚染学会誌 Vol.23 No.5 P293~298(1988)
7) 村田徳治 都市ごみのやさしい化学 日報(2000)
8) 村田徳治 廃棄物のやさしい化学 第
1巻 日報出版(
2009)
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